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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)1248号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告補助参加代理人奥村文輔、同金井塚修の上告理由一ないし四について。

民法七八七条所定の「子」の中には、所論のように年令五〇才をこえた者を含まないと解すべき根拠は全く存在しない。また、被上告人が亡太一の生前に同人に対して認知の訴を提起する機会があつたからといつて、その死亡後三年以内に提起された本訴が不適法となるものではない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎないものであつて採用するに足りない。

同五および六について。

内縁の妻が内縁関係の成立の日から二〇〇日後、その解消の日から三〇〇日以内に分娩した子は、民法七七二条の趣旨を類推し、立証上特段の事情のないかぎり、内縁の夫の子と推定すべきものであることは、すでに当裁判所の判例(最高裁判所昭和二五年(オ)第三二三号同二九年一月二一日第一小法廷判決、民集八巻一号八七頁)とするところである。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実関係のもとにおいて、右にいう推定を妨げるべき特別の事情の存在を認むべき証拠がないとして、被上告人を亡太一の子であると認定した原審の判断は首肯するに足りる。そして、所論のような事情があつたからといつて、本訴による認知請求権の行使が権利の濫用に当たり、また、本訴の提起が目的を欠如するに至るものとはいえない。被上告人の請求を認容した原判決に所論の違法はなく、論旨は採用に値いしない。

同七および八について。

所論は、被上告人は亡太一に対し認知請求権を放棄したとし、また、その認知請求権につき消滅時効を援用するというが、原審においてかかる主張のなされた事実は記録上認められないから、論旨はいずれも不適法に帰する。

なお、論旨は、父の死亡後は認知請求を認めるべきではないとし、死後認知を認めた民法七八七条の規定は憲法一四条に違背するという。しかし、死後認知を認めない法制度のもとにおいても所論の意味での期間的不平等はこれを免れえないものであるから、論旨は前提を欠くし、また、右の意味での不平等が憲法一四条に違背するものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和二八年(オ)第三八九号同三〇年七月二〇日、民集九巻九号一一二二頁)の趣旨に徴して明らかである。民法七八七条但書の規定は母についてのみ適用があるという所論は全く採る余地がない。論旨はすべて採用することができない。

同九について。

論旨は、原判決に憲法三二条、一四条違反があるというが、その実質は、いずれも、憲法の規定に名をかりてたんに原判決の法令解釈の誤りまたは採証法則違背を主張するものにすぎない。そして、原判決に所論の違法のないことは、すでに論旨五ないし八に対する判断として説示したとおりである。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 色川幸太郎 裁判官 小川信雄)

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